マラソンは筋書きのないドラマだと実感。10月15日に開催されたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)、女子でパリ五輪の切符をつかんだのは、鈴木優花さん(24歳)と一山麻緒さん(26歳)でした。優勝候補にあげられていた鈴木亜由子さんと前田穂南さんは中盤で脱略。気温14.6度の激しい雨の中で、体脂肪が少なく低体温症を起こしたことも原因だったと思います。
当日私はNHKで藤川球児さんらと副音声を担当。球児さんの「ここが勝負ですね!」など火の玉ストレートのトークを楽しみました。
レースは序盤、前田さんが主導権を握り、23㎞過ぎから一山さんが出て、細田あいさんがぴたりと付きました。そして第2集団から追い上げてきた鈴木優花さんが38㎞でトップに出て優勝を飾りました。優花さんの大きなストライドの柔らかな走りが印象的でした。
レース前、監督の山下佐知子さんは「花開くのはロサンゼルス五輪(パリの次)ですよ」と話しました。アメリカボルダーで合宿した優花さんは「監督が世界選手権で銀メダルを取った時のことを教えてください」と聞いてきたそう。覚悟を決めて目標に向かう気持ちに触れたことも鈴木さんを強くしたのでしょう。
優勝後、国立競技場で優花さんのご両親、妹さんとお会いしました。「驚きました」とお母さんのヤスコさん。高校時間は800mと七種競技の選手だったそう。秋田大学時代は「お遊び程度で陸上を」と。子どもの頃の優花さんのことを聞くと「お転婆で国語が好きでしたよ」と。中仙中学時代、東北電力中学生作文コンクールで「走り抜いた夏」を書き、入選したそうです。この日優花さんは、秋の雨の中を颯爽と走り抜きました。
(共同通信/2023年10月16日配信)