「東京パラリンピックの私の旅は、大分から始まり、大分で終わる」と語ったのは、マルセル・フグさん(スイス)。11月20日、大分国際車いすマラソン前日の記者会見でのこと。フグさんは東京パラリンピックで、800、1500、5000m、マラソンと出場した4種目すべてで金メダルを獲得しました。大会前に大好きな大分で合宿をし、大会後は大分国際車いすマラソンを走り「今年を締めくくりたい」と話したのです。 レースは、フグさんがスタートするやいなや飛び出し、世界記録を大幅に上回るペースで走り続けました。そんなフグさんにたった1人、鈴木朋樹さんが付きました。鈴木さん、東京パラリンピックでは「フグさんとの差をみせつけられた」と話し、個人種目でメダルが取れなかったことを悔しがっていたのです。そんな思いを払拭するかのようにフグさんにピタリと。そして中間点で2人は世界記録よりも2分以上速いペースを刻みました。 そんなハイペースのレース中、何度がフグさんと鈴木さんが話す場面が。その後も鈴木さんはずっとフグさんの後ろに付き、一度も前に出ようとしません。そして37キロの上り坂でフグさんから遅れ始めました。フグさんはペースを緩めることなく進み、1時間17分47秒の世界記録で、優勝。鈴木さんも1時間18分37秒でアジア記録を樹立。レース中に何を話していたの?と鈴木さんに聞くと、「一緒に引っ張り合う?と聞かれたので、私はめいっぱいなので無理ですと答えました。じゃあ、ボクの後ろについて。がんばればアジア記録だせるよ」と言われたそうです。大分の街を、兄と弟みたいに走り抜けた歴史的な日。改めてフグさんの人格に心打たれました。
(共同通信/2021年11月22日配信)