蝉の声が聞こえ始めた長居陸上競技場(大阪市)で、6月24日から4日間にわたり日本陸上競技選手権が開催されました。2日目の25日は、男子100m決勝。私はゴール付近で運営の大阪陸上競技協会の方々と勝負を見守ったのです。
雨上がりのグラウンドに緊張が漂う中、クイーンの「ウィー・ウィル・ロック・ユー」の音楽が流れ、東京五輪参加標準記録をクリアしている桐生祥秀さん、山縣亮太さん、多田修平さん、サニブラウン・アブデル・ハキームさん、小池祐貴さんが登場。スクリーンに映し出される1人1人の姿は究極の緊張を隠す戦士のようでした。
そしていよいよスタート。多田さんが飛び出し、そのまま逃げ切きってゴール。その瞬間、ワァーという大歓声が。大阪陸協の皆さんによるものでした。「嬉しい、ほんま嬉しい」と涙ぐむ人、「準決勝の時からイケると思っとったんや」ドヤ顔の人等々。皆さんが多田さんを息子のように思っているのが分かりました。純粋で礼儀正しい彼の性格は皆さんから愛されているのです。
多田さんは「OSAKA夢プログラム」で育った選手。2015年に大阪陸協会長の松本正義さん(住友電工会長)を中心に創設されました。大阪にゆかりのある陸上の有望選手を、同協会が発掘、強化支援をしていくもので、都道府県陸協レベルでは画期的な取り組みです。トップ選手の向上のために海外派遣なども行い、多田さん自身大学生の頃、アメリカで合宿を。ジャマイカのアサファ・パウエルさん(ベルリン世界選手権100m銅メダル)の兄に指導を受け、スタートダッシュに磨きをかけました。
浪花の孝行息子、多田さん、これからも夢を走り続けてくださいね。
(共同通信/2021年6月29日配信)