初夏の風が爽やかな5月半ば、山中伸弥さん(公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団・理事長)と新聞の対談でお会いしました。これまでにも何度がお会いしていますが、一段と引き締まった体型にびっくり。すると、「コロナ禍でも月間300㎞走っていましたから」と優しい笑顔。今年4月の長野マラソンは、アップダウンのあるコースに苦しみながらも3時間27分台。これからも2019年に京都マラソンで出した自己ベスト、3時間22分34秒の更新を目指して練習を続けるそうです。何事も極める方なのだと思います。
対談で走る理由を伺うと「もちろん、研究のための寄付集めです」と笑い、「研究者にはマラソンをする人が多いんです。基礎研究では5年間全く成果が出ないこともあります。そりゃ滅入ってしまいますよ。でもマラソンは練習した分だけ結果が出ます。成功体験を得て、リフレッシュできるのです」と。私はこれまで研究者に走る人が多いのは、ドアを開けたら1人で走りに行ける手軽さからだと思っていました。でも山中さんはそれだけではなく、研究のために資金を集め、研究のために心を整える。走ることは全て研究のためでした。
研究は確実に進んでいて、iPS細胞を用いて免疫細胞を製造してがん治療を行ったり、iPS細胞で作った組織を実験材料にして新しい薬の開発に役立てたり。がんやパーキンソン病、脊髄損傷などに対する再生治療や治療薬の開発が期待されています。それを伺いワクワクした私は「視覚障がいの選手や車いすの選手にも効果があるかもしれませんね」と話すと、「はい、そうです」と山中さんはにっこり。これからも人々の幸せを願う山中さんのマラソンを応援したいです。
(共同通信/2022年5月23日配信)