パリ五輪での私の生活は、シャルルドゴール空港内にあるホテルとスタジアムの往復の日々。花の都パリの街をまだ楽しめていません。ホテルの部屋にこもって、ずっーと情報収集をしています。
今回それが生かされたなと思うのは、3千m障害で銀メダルに輝いたウガンダのペルス・チェムタイさんのことです。解説で私は、「チェムタイさんは農家の12人兄弟の2番目で、中学校を中退し、陸上競技をしていなかったら結婚させられていたそうです」と話しました。「でも、走る才能に気付いた両親はチェムタイさんがトレーニング受けるために、5匹のヤギのうち3 匹を売り払いました」と。そして東京五輪で、ウガンダ女性初の金メダリストとなり、「大統領に自動車をプレゼントされました」と、ヤギから車までのストーリーを紹介したのです。日本選手とは全然違う背景に、資料を作りながら涙がこぼれることがよくあります。
「選手の前に人」を伝えたいと思っているので、日本選手のことはお母さんに取材をしています。海外の選手ことは、世界陸上競技連盟のホームページや母国のメディアのニュース記事を読み漁って調べています。
今回もう一つ感動したのは、女子1万mアメリカ代表のウェイニ・ケラティ=フレズギさん。エリトリアで生まれた彼女は2014年、17歳の時、世界ジュニアでユージーンを訪れ、帰りの飛行機にわざと乗り遅れアメリカに亡命。7年後の2021年にアメリカ市民権を獲得しました。市民権を得て、やっと8年ぶりに母とウガンダで再会できたそうです。
日々の生活だけで精いっぱいの国々からも、自分で道を切り拓き、大舞台へ夢をつなげた人たちがいます。そんな選手にもエールを送りたいです。
(共同通信/2024年8月9日配信)