春爛漫、東京では桜からバトンを受けたハナミズキが街を彩っています。陸上競技もロードから春のトラックシーズンがスタート。私が最も注目しているのは田中希実さん(東京五輪1500m8位入賞)です。圧倒的な強さで陸上界に風穴を空けてくれました。
先日、1年間所属した豊田自動織機を離れ、ニューバランスとプロ契約。そしてプロ宣言後の初戦となる金栗記念選抜陸上中長距離大会(熊本市)の1500mに出場しました。髪を頭の上でまとめたお団子スタイルに「おっ、希実ちゃん心機一転、気合い入ってる」と感じたのです。ところがレースは、ペースメーカーの後ろにピタッとついた希実さんの後ろに後藤夢さん(ユニクロ)が付き、ラスト200mでかわされ、希実さんは2位に。日本で負け知らずの彼女なだけに、凄く悔しそうでした。「環境が変わり、がんばりたいという気持が空回りしていますね」と父でコーチの健智さん。
希実さんはとにかく真面目な選手です。プロとして見られていることに過剰に反応。更に結果を出さなければという責任感が強いのです。また、所属していたチームを離れ少し孤独を感じているよう。
そんな彼女に健智さんは「プロではなくフリーだから」と言っています。これからは色々な実業団の選手と共に合宿をしたり、海外で練習する時間を増やしたり、新しいやり方を楽しもうとしているのです。道を切り拓き続ける彼女の孤独を感じながら、「マラソンの 先頭をゆく 寒さかな」という黛まどかさんの俳句を思い出しました。
希実さんの同志社大学の卒業論文は、トレーニングとレース中のストレスについて研究したもの。今こそストレスを発散し世界へ攻めていって欲しいです。
(共同通信/2023年4月10日配信)