落ち葉のイチョウが路面を明るく染めた第42回クイーンズ駅伝(全日本実業団対抗女子駅伝)。1区には田中希実さんなど精鋭ぞろい。火花を散らす激戦になると思いきや、スタートしてすぐに木村友香さん(資生堂)が飛びだし、先頭を一度も譲らずタスキ渡ししました。向かい風の中、人の胸を借りない「お見事!」なレースが資生堂チームの優勝に大きく貢献したのです。
ゴール後、競技場には友香さんのご両親と姉の光希さん、弟の光佑さんの姿が。お母さんの明美さんは元陸上選手で、私のチームメイト(NEC)でした。名前も同じで姉妹のように仲が良かったのです。「ヨカッタね」と声をかけると明美さんは涙ぐんでしまいました。
大会前日にホテルに会いに行った時、友香さんは「明日は田中(希実)さんのペースにはさせない」と言ったそうです。1500mでトップクラスの選手だった明美さんは「シューズの紐がほどけないようにしてね」とだけ伝えました。明美さんの涙の中には色んな風景が浮かんでいたのだと思います。
一昨年のこの大会、資生堂に移籍したばかりの友香さんはアンカーに。しかし、7位で受け取ったタスキを20位に落とし翌年のシード権を逃してしまいました。脚を痛めていたのです。「辞めたい」と言う彼女に「友香の人生だからね」と明美さん。そのことを知った光佑さんは、勤務先の関西から東京に飛んできました。そして友香さんに「能力が高いのに何で辞めるんだ。ここで辞めたら他の仕事についてもろくな人間にならない」と叱咤したそう。光佑さんは青山学院大学陸上部で選手、マネージャーを経験した人。友香さんの激走のうらには、こんな温かい家族の力がありました
(共同通信/2022年11月28日配信)