東京五輪16日間の熱戦は終わりましたが、地元で報告会が開催されたり、金メダリストの故郷でポストが金色に塗られたり、興奮冷めやらぬままパラリンピックへとバトンが渡りそうです。
ステイホームでテレビやスマホで中継を観ていた人も多いでしょう。金メダルを逃し、応援してくれた人々に詫びる姿に「謝る必要はないよ、がんばった、ありがとう」と声を掛けたくなるのは私だけじゃないと思います。
今回の大会で特に印象に残ったのは、選手の皆さんの「本番を楽しむ」姿勢です。女子走り高跳びで銀メダルに輝いた、オーストラリアのニコラ・マクダーモットさんの跳躍前の表情や動作に、心が和みました。助走する前にニッコリと天使のような笑顔をみせるのです。カメラマンもそれを画面いっぱいのアップに。そして彼女は明るく「カモーン」と自らにエールを送って走り出しました。
スケートボード女子ストリートで失敗しても笑顔のマルジエリーン・ディダルさん(フィリピン)。他の選手をノリノリで応援する姿がステキでした。また卓球で金、銀、銅の3つのメダルを獲得した日本代表の伊藤美誠さん。シングルスで敗戦後も女子団体に向けて「楽しみたい」と。この境地に達っするまで、どれほどの練習を積み重ねてきたことでしょう。
精一杯の努力をしても、本番で緊張したり舞い上がったりしてしまい、実力を発揮出来ない人もいます。ロサンゼルス五輪(1984年)での私が正にそうでした。あの時は、笑顔どころか悲壮感が体中に漂っていました。
だからやるだけのことをやったら、後は本番を楽しむ。そんな心に余裕がある人が良い結果を生むのだと思います。それは何にでも言えることですね。
(共同通信/2021年8月9日配信)