桜からツツジへ季節のバトンが渡りそうな4月12日、熊本市で金栗記念選抜陸上中長距離大会と日本陸上競技選手権大会(1万m)が同日に開催されました。私は、廣中璃梨佳さん(日本郵政グループ)に注目。というのも1週間前、米国アルバカーキで合宿中の髙橋昌彦監督から「廣中、今回は勝ちますよ。動きも表情もいいので楽しみにしていてくださいね」とメールが届いたからです。
昨年は廣中さん、とても辛い年でした。右膝の怪我などで約半年間思うように走れず、パリ五輪の出場資格(女子1万m)を得ていたのに、怪我の影響で出られなかったのです。無念だったと思います。怪我も治り、この日は赤い帽子を被ってウォーミングアップ。「廣中さ~ん」と声をかけると、立ち止まってニッコリとお辞儀をしてくれました。こんな礼儀正しい人だから、誰からも愛されるのでしょう。
そしてレースは、激しい雨の中のスタート。ペースメーカーのマーガレット・アキドルさん(コモディイイダ)が作る千m3分08秒の速いペースに、廣中さんはぴたっと付きました。そして8千mでマーガレットさんが外れると、矢田みくにさん(エディオン)と一騎打ちに。廣中さんはバネを生かしながらペースを上げていきます。そしてラスト800mで矢田さんを引き離して、見事優勝しました。
記者の皆さんに囲まれた廣中さんは、「勝つことが出来て嬉しいです」と美しい笑顔でした。そして「走れなかった時間は、弱い自分を成長させるためのものだったのだと今は思えます」と涙をこらえながら話しました。その姿に、私ももらい泣き。苦しみを乗り越えた廣中さんの力強い第一歩に、すごく勇気をもらいました。
(共同通信/2025年4月14日配信)