蝉の鳴き声がパリ五輪でがんばった選手たちへの拍手に聞こえます。最終日の女子マラソンは「ベルサイユ行進」(食糧不足の解消を求め、国王をパリに連れ戻そうと女性たちがパリからベルサイユ宮殿へ押しかけたフランス革命のひとつ)に着想を得た歴史の道。これまでの五輪で見たことのない高低差(156m)は、選手泣かせでした。
でもそのコースにめっぽう強かったのが、鈴木優花さんです。「下り坂の攻略しか考えていない」と話していた優花さん。上りに自信のある彼女は、米国・ボルダーで下りの練習を多く行ってきました。そしてレース中、上り坂が始まった16km付近で追いつき、ケニア、エチオピアを中心としてアフリカ勢に交じって先頭集団を形成しました。29㎞付近で少し離されたものの、31㎞前後の急な下り坂で優花さんは一気に加速し、先頭集団に再び追いつきました。その走りは、両手を飛行機のように広げてバランスをとり、足に負担をかけない見事なものでした。私は国際映像を観ながら、感服し、解説していたのです。
大東文化大学時代の恩師外園隆さんは、29㎞付近の一番きつい上り坂の所にいて、優花さんが来たら「それ、それ、それ、そーれ」と、いつもの気合の入った応援しようと思っていたそうです。でも実際に、走る姿をみたら「こみあげてくるものがあって名前しか呼べなかった」と話します。
そして優花さん、その勢いてゴールへ突き進み、見事6位に入賞。お母さんの康子さんは「びっくりしました!」と嬉しそうでした。最初にコースを見て攻略法を考え、本番で実践する。素晴らしい結果だったと思います。美しいパリが大好きな優花さん、大きな花を咲かせました。
(共同通信/2024年8月19日配信)