野性のプリンセス誕生
いつもの“なごやかな”雰囲気とは程遠い名古屋でした。東京オリンピックの女子マラソン日本代表、残り1枠を決める名古屋ウィメンズの日は朝から大雨。順位だけでなく、2時間21分47秒を切ることが条件となっている選手たちは気の毒だと思いました。
ところがそんな厳しい条件のなか、一山麻緒さん(22歳・ワコール)が日本歴代4位の記録(2時間20分29秒)で優勝。レース直前に「30kmの給水ボトルを取ったら、そのままスパートしますよ」と永山一忠監督がレース前に言った通りの走りでした。そして一山さん、1人旅になった30kmからは眠りから覚めたように速いペースを刻み、前半のハーフよりも後半のハーフが23秒も良い記録だったのです。
レース後、30kmからの一人旅はどうだった?と尋ねると「レース中、苦しい時が一度もなかったです」と一山さんはニッコリ。本人が「(永山監督の)鬼メニュー」という厳しい練習を確実にこなした強さなのだと思います。すごい選手が最後の切符をとりました。
私は一山さんのことを「野生のプリンセス」と名付けていました。野性を感じさせる伸びやかな走りと、練習に挑む姿の貪欲さからです。クイーンである福士加代子さんの背中を追ってきたこともその名の由来。
1つも文句を言わずに体当たりしていく一山さんの素直な性格も強さの秘訣でしょう。入社2年目、練習の一貫として出場した全日本実業団陸上。初日の午後にジュニア3000mを走り優勝、その約2時間後に5000mに出場して5位、2日後の1万mでは2位に。その激走ぶりに驚きました。名古屋で「福士さんがいたから成長出来ました」と話す一山さん。素直で可憐な花が咲きました。
(共同通信/2020年3月9日配信)
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