よきライバルを得て
5年振りに日本で開催された世界フィギュアスケート選手権。羽生結弦さんはネイサン・チェンさん(米国)に負けましたが、清々しい表情でした。自分もフリーでベストを尽くし、それでも叶わなかった。モニターでチェンさんの演技を見つめる羽生さんが「かっこいいー、明日から練習だ、4回転ループ、4回転ループ!」と話すのをテレビで観て、ライバルの存在は偉大だな、いいなあと思いました。チェンさんもこれまで、羽生さんのピョンチャン五輪の金メダルに触発されてがんばってきたのです。ライバル同士、お互いが相手のことを認めて更に努力をする。刺激し合いながらお互いが高め合っています。
そして先日、NHKラジオの私の番組に出演してくれたレスリングの太田忍さん(リオデジャネイロ五輪レスリング・グレコローマン59kg級銀メダリスト)もそうでした。来年の五輪で金メダルを狙っていますが、2歳年下の文田健一郎さんを「一番怖いです!」と話します。2人は母校の日本体育大学で練習。文田さんはリオ五輪の時は太田さんの付き添いだったそうです。「強くなると思ったので付き添って貰ったけど、強くなり過ぎました」と太田さん。昨年末の全日本選手権では文田さんに負けてしまいました。「文田は体の柔軟性、バネ、センスの全てにおいて規格外」と。でもだからこそ、「気を緩めずにいられる」と太田さんは話すのです。来年、60kg級で代表になれるのは1人だけ。世界のトップを争う2人が同じ練習場で日々鍛錬。毎日が試合のようで苦しいと思いますが、だから強く優しくなれるのでしょう。こんなライバルは、お互いが引退した後に、かけがえのない友になるのだと思います。
(共同通信/2019年3月25日配信)
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