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おしゃべり散歩道2018

見守る母の目に涙

 新年はニューイヤー駅伝でスタート。朝6時55分に日が昇り、赤城山を眩しく照らしていました。私は群馬県庁32階に設置された放送センターから宗茂さんと共に解説。「今年のうちは強いよ。練習で駅伝メンバー7人全員が28分台で走った」と宗さん。選手層の厚さは、村山紘太さんや佐々木悟さんといった五輪選手がメンバーから外れてしまうほど。宗さんの言葉通り、レースは2区から旭化成が独走し、2連覇を達成しました。暫く旭化成の時代は続くかもしれません。
 そして私が最も印象に残った選手は、1区を走った遠藤日向さんです。19歳のルーキーながら切れのあるラストスパートで先輩たちを置いてけぼりにして、区間賞を取りました。イケメンで胸を張った走りには、スター性があります。
 日向さんは福島県郡山市出身で、幼い頃にお父さんを病気で亡くし、お母さんの良子さんが上のお兄ちゃんと共に大切に育ててきました。大会にはいつも良子さんの姿があり、「日向!ひゅー」と良子さんの声がすると、日向さんは一段とペースを上げたのです。中学、高校と全国制覇を成し遂げ、次の目標を東京五輪に置いた彼は、実業団の住友電工に入社。そして早速、大器の片鱗を見せてくれました。
 学法石川高校の卒業式で泣きながら母へ感謝の気持ちを伝えた日向さんに、涙を見せなかった良子さん。この日、1区の沿道には良子さんの姿があり、日向さんをビデオに収めながら泣いていました。レース後に話を伺うと「昨夜はお腹が痛くて眠れなかったです」と。社会人になった日向さんの晴れ舞台を、緊張しながら静かに見守っていたのです。元日から日本陸上界に初日が昇ったような爽やかです。

(共同通信/2018年1月5日配信)

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