追走の勇気が素質
今や春のスポーツ祭りの盛り上がりをみせる東京マラソンが2月28日に開催されました。今年はリオ五輪の男子選考レース。私が注目したのは村山謙太さんです。駒澤大学時代から箱根駅伝などで活躍し、卒業後は弟の紘太さんと旭化成に入社。大変明るく人懐っこい選手です。今回が初マラソンの謙太さんに対して、西政幸監督はスタート前から「わくわく半分、冷や冷や半分」と話していました。わくわくの理由は練習でみせる抜群の強さ。スピードのある謙太さんは、この大会に合わせて4回行った40km走の練習で、最後の一本は2時間6分台でゴールするという調子の良さ。これまで数々の選手を五輪に送り込んだ古豪旭化成チームでも、これ程のタイムを出す選手はいかなったそうです。冷や冷やは「ただ、経験がないこと」と西さん。
レースがスタートし、7kmを過ぎると先頭集団のアフリカ勢がペースアップ。すると、謙太さんは日本選手でただ一人そこに付いていきました。日本記録を上回るペースで、5kmから10kmを14分38秒で走るという驚異的なもの。中間点過ぎまで先頭集団に喰らいつき、一時は日本選手中心の第2集団に2分以上の差を付けました。しかし22km過ぎに失速。後続に次々に抜かれ、結果は2時間16分58秒で30位。ゴールした謙太さんの右足のシューズを見てびっくりしました。つま先が血で真っ赤に染まっていたからです。5km過ぎにマメがつぶれ、13kmからはつま先に力が入らなくなったそうです。それだけ速いペースに挑戦したということでしょう。「力不足です」とただ一言、謙太さん。いいえ、アフリカ勢に臆することなく、積極果敢に挑んだその勇気こそが一番の素質なのです。
(共同通信/2016年2月29日配信)
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