”今”を積み重ねる2人
先日の千葉国際女子駅伝で、千葉を訪れた女子マラソン世界最高記録を持つポーラ・ラドクリフさん(英国)は、知的で配慮に富んだ人でした。
大会2日前。宿泊先の千葉エアロビクスセンターで、日本代表選手たちとの交流会が開かれたのです。選手たちは目を輝かせて彼女にたくさんの質問を。例えば「マラソンレースに向けて、練習で一番長く走る距離は何キロですか」と女子5000メートル日本記録保持者の福士加代子選手が聞くと、「最高は2時間半です。わたしは距離ではなく、時間で走っているのよ」と答え、「なぜなら時間の方がストレスにならないから」とほほ笑みました。
選手からの質問を優しいまなざしで聞き、通訳の言葉が終わるまで待ち、ゆっくりうなずいてから唇が動く…。その所作が気品にあふれ、選手をはじめ、監督やコーチまでも、うっとりと見とれてしまうのでした。
彼女は、おばあちゃん子だったそうです。子どものころ、祖母にいただいた「人生の結果は努力の見返り。だから、常に全力を尽くしなさい」という言葉が現在も彼女を支え、勇気づけていると言います。そういえば、Qちゃん(高橋尚子)も有名なおばあちゃん子(彼女の祖母は他界しましたが)。ラドクリフさんの話を聞いていると、2人にはさらに共通点がありました。それは、遠い先の話はあまり語らず、「今」にすごく集中していることです。
東京国際女子マラソンを走る前、Qちゃんは「『今日』という日は人生において1日しかないから、毎日全力で生きたい」と話しました。そして、ラドクリフさんは「自分がコントロールできるのは『今』しかないのよ」と話します。
「今」を積み重ねてきた2人だから『今』があるのだと思います。
(共同通信/2003年12月3日配信)
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