5月の心はみかん色
5月は1年の中で最も好きな季節です。わたしにとって、5月の香りは「みかんの花」。子どものころ、自宅裏のみかん山に白い小さな花を咲かせたみかんのふんわりとした甘い香りが忘れられません。全身がうれしさに包み込まれました。
先日、わたしが教える大阪芸大の学生たちと学校から3キロの「近つ飛鳥の森」へ走りに行きました。ふと、家垣から甘い香りが。「何だろう?」「はごろもジャスミンですよ!」。草花に詳しい女子学生が教えてくれました。わたしたちはしばらく足を止め、その香りをおなかいっぱい吸い込んだのです。道には、立ち止まりたくなる「香り」があるものです。
そんな折、東京へ戻ると、オフィスに「ダン・シュレンダー氏がすごく会いたがっています」というメールがありました。個展パーティーに来てほしいというものでした。えっ、あのダンさん? わたしが20歳の時、ダンさんが「ナイキジャパン」の強化選手(米国の五輪マラソン代表を目指して)として来日、よく一緒に練習しました。
本来は弁護士ですが、画家としても成功。日本語版「ハリー・ポッター」の表紙画を描いたことでも有名で、今回は個展を開くために来日したそうです。
いてもたってもいられない気持ちでパーティー会場へ。ダンさんがわたしを見つけ、人の波をぬって走り寄ってきてくれました。長身でスマートな体をジャケットに包み、足はジョギングシューズ。「アケミ、このシューズを今日、デパートで買ったんだよ」と、夢中で話すダンさん。19年ぶり。何とうれしい再会だったことでしょう。
今は弁護士を辞め画家一本とか。飾られた絵を見渡せば、どれも美しい色合いでロマンチックなものばかり。それを褒めると「選手のころ、この足でいろんな色に出会ったからね」。やっぱり5月の心はみかん色です。
(共同通信/2003年5月17日配信)
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