納得いく練習で五輪へ−「無冠の女王」弘山さん−
「あと長くても1年ちょっとです」。横浜で弘山晴美さん(資生堂)はキッパリと話しました。中国・昆明の高地合宿から戻ったばかり。横浜国際女子駅伝の日本代表チームのアンカーを走るためでした。
あと1年ちょっと? わたしが聞き返すと、「アテネ五輪の選考会までは頑張りたい」と、意を決する表情で話したのです。弘山さんには「無冠の女王」という印象があります。実力、人気ともにナンバーワンで、これまで中・長距離3種目において日本記録を6度も更新するなど、日本陸上界を引っ張ってきました。
全実業団チームへのアンケート「尊敬する人は」の項目に、若い選手たちから最も多く名前が挙がるのが弘山さんです。シドニー五輪女子マラソンの切符を手にすることができなかったことは、どんなに悔しかったことでしょう。
さらに昨秋、アテネ五輪への第一歩として臨んだ釜山アジア大会の直前に足をけがするというアクシデントが(それでも女子マラソン銀メダル)。
でも、弘山さんは「わたしは今まで(けがや貧血のため)”これでいい!”と納得できるマラソン練習を計画通りにやりこなせたことがないんです」と、笑います。「ですからあと1年少し『やるだけやったんだ』と納得がいく練習がしたいだけなのです」
波乱の競技人生を歩む弘山さんが今、こんなことを考えているなんて…。何が何でもオリンピックに、と気負うのではなく、あくまで「自分に納得のいく…」と思えるところが弘山さんらしいと思いました。
そして、彼女は納得のいく練習をするために、昨年11月から歯の矯正(かみ合わせをよくして、筋肉によい影響を与えるため)も始めています。先が見え始めた弘山さんの一歩一歩は力強く、表情は優しく輝いています。
(共同通信/2003年3月7日配信)
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