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おしゃべり散歩道2003

”過去”割り切り復活−帰ってきた千葉さん−

 「帰ってきてくれた!」。わたしは心の底からそう思いました。
 先に行われた大阪国際女子マラソンで、2位になった千葉真子さん(豊田自動織機)です。彼女は最後の2.195キロを7分18秒という最高タイムで走りました。30キロ過ぎでいったん離されたのに、驚異的な追い上げは、マラソンのレースではなかなか見られるものではありません。
 千葉さんといえば、元祖「スピード」の申し子。1996年、20歳で迎えたアトランタ五輪女子一万メートルで5位入賞。翌年の東京シティーハーフマラソンで世界最高記録を出し、アテネ世界選手権では女子一万メートルで銅メダル。本人も「いつかマラソンで世界最高を狙いたい」と目を輝かせていました。
 しかし、その後はけがの連続。輝かしい実績があるだけに、走れない日々はどんなにかつらく、もどかしかったことでしょう。旭化成を退社したとき、「あきらめたわけではない。違う環境でマラソンを目指したい」と言っていたのを思い出します。そして、その後、米国・ボルダーまで出向き、名将小出義雄監督の門をたたいたのです。
 一昨年、取材でボルダーに行ったとき、自転車を走らせる千葉さんにばったり会いました。朝、晩の練習の合間もできるだけ体を休ませず、スタミナを取り戻そうと自転車で山へ向かう途中だったのです。色白の肌が褐色に焼け「高橋さん(Qちゃん)と一緒に走っても、すぐに豆粒くらいに見えなくなってしまうんです」と明るく笑っていたのを思い出します。力強く復活した今でも彼女は「あのころの栄光は夢のよう」と話します。
 「過去」をこんなふうに割り切れるのが彼女の強さです。そうでなければ、自分の人生において、自らいくつもの大波をつくれるものではありません。大阪で見せた「2.195キロ」こそがこれからの千葉さんを暗示しているように思います。

(共同通信/2003年2月12日配信)

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